堀口 三恵子
(社)堀口三恵子美容アカデミー理事長
東京医療専門学校 教員養成科 美容鍼灸講師
(社)グローバル・ブライズ・ビューティー協会理事
(社)日本エステティック協会認定エステティシャン
操体法セラピスト

院長
インタビュー
「美容鍼」のパイオニアであり、学会で論文を発表されるなど、学術的に美容と鍼灸の効果を研究をされている堀口先生に「美容鍼」のお話を聞きました。
先生が鍼灸の世界に進んだきっかけはなんですか?
代々医療系の家系だったのが大きかったと思います。
高祖父は医師で、曾祖父は鍼灸師で地元でとても有名人でした。
そんな家系で生まれ育ったので、最初は医師になろうと思っていたのですが、祖母が体調を崩して手術が必要になった時に、曾祖父が鍼を打って治したんです。
そんな体験をした祖母から鍼灸の良さを聞いていて、曾祖父の影響もあり、自然と鍼灸師の道を目指すことになりました。
ちなみに、当院名は、祖母の名前「コウ」からいただいたものです。
コウ鍼灸治療院では「美容鍼」だけではなく、他の施術と組み合わせて行われますね
はい、顔に鍼をすることがクローズアップされがちですが、「美容鍼」は、鍼だけではなく、様々な施術と組み合わせて、全身に対して行われるべきものです。
全身に対して施術を行うのが鍼灸治療の基本的な考え方で、全身の一部としての顔という位置付けです。ですから顔面だけの問題ではなく、全身の骨格のゆがみを整えていくことで顔のゆがみも持続的に改善していくということです。
また、一人ひとりに合わせて施術内容が変わるのも基本です。
例えば、男性の咬筋のボリュームと女性の咬筋のボリュームが全然違うように、力仕事をする人と力仕事をしない人の咬筋の強さも違います。
このぐらいの症状であれば鍼で、この人だったら操体法で、手技療法、運動療法が効果的かなとか、そういうニュアンス的な経験則から導かれるものがあります。
一人ひとりが持つパーソナルな身体的な特徴や症状がありますから、施術方法もひとつのパターンに当てはめることができないのです。
鍼が効果的な人もいれば、そうじゃない人もいる。一人ひとりに合わせた施術が大切です。
「操体法」との出会いについて教えてください。
専門学校の同級生、といっても年齢はかなり上だったのですが、その方から操体法というものを知りました。
その同級生から、操体法の創始者・橋本敬三先生の直弟子である渡辺栄三先生を教えてもらい、先生のもとで操体法を学びました。
当院を開設した時の最初のパンフレットにも書いたものなんですが、本当に人間の身体や骨は心の声や感情に影響されます。
これはオステオパシーの考え方でもありますが、人間の身体は驚きや悲しみに反応して、それを記憶していきます。びっくりすれば身体が硬直しますし、ショックなことがあれば脱力して気が抜けてしまいます。
身体はすべての構造と機能が繋がっていて互いに関係しあっています。そしてあるべき構造を保とうと自己調整するメカニズムが備わっています。
骨のゆがみを整え、筋肉を温めることで身体の不調が、心地よさに変わっていく。
「身体の声を聞く」ことを、私は開院当初からの絶対的な理念としています。
そして、お客さまとの出会いに感謝する気持ちも常に忘れず大切にしています。
美容鍼は小顔に効果があるそうですが、そのメカニズムを教えてください
美容鍼で使うツボは、顎関節症治療と同じツボを使います。
顔が太る、大きくなる理由の一つに「エラが張る」ことが挙げられますが、その原因の一つが咀嚼筋です。
咀嚼筋は噛む筋肉で、噛み締めが強い方などはこの筋肉が成長してしまい、結果的に「エラが張る」ことになります。
美容外科などでは小顔の施術にはボトックス注射が用いられますが、このボトックス注射は、まさに咀嚼筋に対して注射を行い、咀嚼筋の成長を止める効果があります。ということは、咀嚼筋が減少させることができれば顔の容貌を整えることができる、咀嚼筋にアプローチできれば、鍼でも同じ効果を得られるのではないかというのが仮説です。
実際に鍼を刺してみると、顔の左右差が整い、無駄なボリュームがなくなることで顔がすっきりとします。それにより美容上のメリットが生まれたり、噛むストレスが緩和されたりすることで、結果的に小顔に見せる効果が生まれるのです。
「美容鍼」は、顎関節治療から生み出されたそうですね?
はい、今では顔への鍼といえば「美容鍼」「美顔鍼」と言われるように美容面が注目されていますが、今から20年ほど前までは、顔への鍼は「顎関節症」治療を目的としたものが中心でした。
すでに鍼は額関節症に非常に有効だと多くの論文で言及されていて、鍼が効くというエビデンスが数多くあります。
額関節症には1度から6度までの段階がありまして、1度を軽症とすると6度が重症で、口が開かない、痛みが激しいなど、手術が必要な段階です。
この症状の度数でいいますと、1度から3度までは鍼が非常に有効だという論文、エビデンスが多数存在しています。
鍼のほかには、電気治療や、マニピュレーションというマッサージ治療で効果があるなど、物理的療法が有効であるという論文も数多くあります。
そのほか、「顔面神経痛」や、「三叉神経痛」などの痛みの緩和、眼精疲労や鼻炎・花粉症などの治療として顔面に鍼を刺すという認識が業界では一般的で、美容効果についてはほとんど認知されていませんでした。
私も当時勤めていたクリニックで顎関節症治療のための鍼治療のほかに、SSP療法(低周波治療)を行なっていましたが、電気と鍼では治療後の顔面に決定的な違いがありました。それが美容的な効果です。
実際、鍼治療を行っていると、顎関節症に対する効果のほかに美容面の効果も視覚的に気が付いていました。
顔面への鍼治療で、すごく喋りやすくなる、滑舌が良くなる、嚥下が楽になる、といった顎関節症の症状軽減のほかに、くすみが抜ける、顔色が良くなる、吹き出物がなくなる、アゴのたるみがなくなる、顔色が良くなる、といった変化が表れる患者さんが多かったのです。
患者さん自身もその変化を自認して、「顎関節症は良くなったけど、先生、また顔の鍼をしてほしいです」という声が多かったので、当時勤めていたクリニックで美容メニューとしての鍼治療を開始しました。
そして鍼の美容面への効果の研究を重ねていき、今の「美容鍼」に繋がっています。
現在の治療方法が確立されていった経緯を教えてください
顎関節治療をきっかけに、美容への鍼の効果を研究するために、解剖学の研究を始めました。
例えば、眼瞼下垂という美容疾患がありますが、皺眉筋にアプローチしていくと眼瞼下垂に効果があるのでは、といった仮説を検証していくことです。
それには過去の論文が大いに参考になり、すでにあるエビデンスをもとにして、施術方法を組み立てていきました。
ツボというのは平面的なものではなく、立体的な位置が非常に重要です。
顔は平面ではありませんから、鍼を刺すにしても、太さや深さ、刺激の強さやアプローチする位置を知ることが必要です。また、実はツボの位置は一人ひとり大きく違っていますので、解剖学や皮膚科学の研究が欠かせないと判断した理由でもあります。
研究から論文執筆をされた経緯を教えてください
鍼をするとすごくスッキリするし、むくみが抜けるといった効果は視覚的にわかるのですが、その効果がなぜ起こるのかという医学的根拠や視覚的な解剖画像はありませんでした。
鍼をすることで、口が開きやすくなったとか、VAS( Visual Analogue Scale)による評価で、顎関節の痛みが軽減したというデータは大量にあります。
ということは鍼が咬筋にアプローチできているはずだと仮説を立てました。
顎関節は、咬筋(咀嚼筋)と側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋から成ります。
咬筋は美容外科の小顔療法でボトックス注射を打つ筋肉で、鍼治療でもその筋肉に影響を与えることができるということは、小顔効果を生み出せている根拠となる可能性があります。
実際、視覚的に見ると咬筋への施術後は顔がスッキリしますし、写真を撮って比べてもその効果ははっきり分かります。
ところが、写真でのいわゆる“ビフォー・アフター”では医学的な証明にはなりません。視覚や体感で効果を得られていたとしても、医学的に効果が認められるかといえば話は別で、しっかりとしたエビデンスが無ければ医療としては認められません。
現在は民間療法の域を出ない美容鍼をさらに1段階引き上げ、きちんとした治療法として確立するためには、医学的効果の証明が不可欠であることも研究・論文への大きな動機でした。
そんな時、私が講師を務めている呉竹学園で、同じく講師をしていた美容皮膚科の先生からの推薦で研究を始めるチャンスを得ることができまして、本格的に研究を進めることになりました。
論文執筆で苦労されたことはありますか?
それまで顎関節症に対する鍼治療の効果を論じた論文は多数存在していましたが、美容に対する効果を論じた論文は皆無。完全に手探りの状況からのスタートでした。
当初は、チームメンバーの一員として執筆に加わる予定だったのですが、紆余曲折あり、私がチームの代表として進めることになりまして、MRIの撮影一つにしても、全て自分が責任を持たなければならないというのも大変苦労した点です。
研究では様々な知見を持つ先生方と協力して臨床を行うことができて、MRIでの画像撮影の結果などを踏まえ、2017年に慶應大学の研究会で研究結果を発表し、2021年には全日本鍼灸学会に論文を提出しました。
この研究により、美容鍼施術によって、咬筋や筋膜といった顔面の皮下組織の変化が確認できたことで、美容鍼施術の効果がMRI画像で評価できる可能性を示すことができました。
さらに現在はその論拠をより強固にするために新たな論文執筆のための研究を行なっています。
美容鍼の研究は「美しさ」の解明に繋がりそうですね。
私も非常に興味があるところですが、「美容鍼ってキレイになるよね」が論文の本題ではありません。
「キレイになる」という概念的なものではなくて、鍼が咬筋に対してどんな組織学的な変化を生んでいるかの裏付けを取ったということなんです。
医師の前で論文を発表したときに「じゃあ咬筋が減ることはいいことなんですか?」という質問を受けたんだけど、そこが果たして正しいどうかは私にもわからない。今後の研究の課題であると思います。
先生が追い求める究極の美容とはなんでしょう?
美容における究極というのは、医学においても同じなのですけど、「何もしないこと。何もしなくてもキレイになること」に尽きると思っています。
それは医者も同じ思いのはず。最終的に思考とかイメージでキレイになったり健康になること。何も刺激をしないことが一番だという考え方です。
トップアスリートを教える指導者も、何かの刺激で変えるのではなく、内なるマインドを変えるという指導をされていらっしゃいます。
それと同じで、刺激を与えずにキレイになるのが究極といえます。
もちろん、私たちは刺激を与えてお金をもらってるのだけれど、当院の常連のお客さまは、私とおしゃべりして帰っていくだけでも顔色が良くなっちゃいますよ(笑)ー